イオンなど小売業界の人件費上昇がすごい

2017 年度第 3 四半期(9-11 月期及び 10-12 月期)頃から、四半期決算が発表される度に、人件費の上昇に関連した投資家からの質問や、それに起因したとみられる株価変動が多くみられている。

特に、ドラッグストアにおいて、人件費の上昇を懸念する声が多く聞かれる。

しかし、図表 4 でわかる通り、我々がカバレッジしている企業の中で、2003 年度までデータを遡及することが可能な小売企業 20 社を集計すると、小売業界全体で売上高人
件費比率は 2010 年度をボトムに上昇しているが、ドラッグストア業界の売上高人件費比率は他のサブセクターに比べると安定している。

最低賃金の上昇と労働力不足により、サプライチェーン全体のコスト上昇や店頭販売員のコスト増が小売企業の利益を圧迫していることは事実であるが、成長産業であるドラッグストアにとっては、人件費上昇は実質的に大きな課題とはなっていない。

ドラッグストアの業績と株式市場の期待値のギャップを人件費増だけで説明しようとすることには、やや無理があると考えている。

衣料品専門店・アパレル・雑貨

衣料品専門店・アパレル及び雑貨関連企業においては、主として販売基調の差により、
2017 年度と同様の業績格差が今四半期決算でもみられる可能性が高いと予想する。月
次販売動向をみると、ユナイテッド・アローズ(7606)などが概ね好調な推移を示す一方、
青山商事(8219)などの紳士服専門店は伸び悩みが続いている。また、セリア(2782)につ
いては、直近 6 月の月次販売は復調したが、イベント関連商品やハンドクラフト商品等へ
の需要低下に加え、購買意欲を刺激する目新しい商品の欠如により、今後も既存店売上
高が伸び悩む可能性が高いと予想する。

食品スーパー・地方 GMS

食品スーパー・地方 GMS では、人件費を中心としたコスト上昇圧力の低減と出店余地
拡大を目的とした投資を行っているヤオコー(8279)に引き続き注目している。

青果の市況価格が前年比で下落する中で、既存店伸び率は前年比 1.8%増と、通期会社計画(±0%)を上回って推移している。デリカセンター拡張、物流センター新設、システム投資に伴い、減価償却費の負担は増加するものの、営業増益基調は今後も継続すると予想する。

また、金融事業が強いイオンのクレジットカード事業の拡大も注目すべきだ。

イオンカードの利用者が、イオン株主になり、まわりまわって同社の株式を支えている構図が見られる。

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食品スーパー子会社の再編を発表

食品スーパー再編スケジュールが確定

2018年10月10日の2019/2期上期決算発表と同時に、SM・GMS企業再編のう
ち、食品スーパーの再編スケジュールが開示された。

但し、首都圏エリアやイオンリテールの大半の事業、GMS事業からの非食品部門の分社化など、確定していないことは数多い。また、GMS事業における「イオンスタイルストア」のような新しいビジネスモデルが食品スーパーでは確立しておらず、この点が最大の課題と判断する。

一方、中期計画への期待値が短期的に剥落するとは考えにくく、独自の株主優待制度による個人投資家からの支持や短期業績の安定性を考慮すると、現行株価水準に際立った割高感はないと判断する。

背景:不採算事業の収益改善により短期業績は概ね安定

経営管理のガバナンス体制が強化された結果、不採算事業の収益改善が
進むなど、当社の短期業績は概ね安定して推移している。2018年10月10日
発表の2019/2期上期業績は、上期としては4年連続の営業増益となった。食
品スーパー以外の事業の構造改革のスケジュールや具体策が固まる可能
性に注目する。

注目ポイント: 独自の株主優待制度が株式需給に寄与

株主優待などにより個人投資家からの関心の強い銘柄であり、他の小売企業と
異なる株式需給が発生する可能性に留意したい。

オペレーティングリースを活用するなど、他人資本への依存度が強い点はリスクだが、フローの収益改善が続いている限り、バランスシートリスクが顕在化する可能性は低いと判断する。

 

上場子会社群に対する収益依存度の高さ、GMS・食品スーパー事業の採算の悪さ、
などのマイナス面を配当と豊富な株主優待制度などが下支える点に変化はないと判
断し、レーティングは Neutral を継続する。

期初に宣言していた食品スーパー、GMS 子会社の地域毎での統合を発表したものの、
統合スキームが複数に渡り複雑である事に加え、統合後の業績改善施策の発表はこ
れからである点から、集約化による業績改善は現時点では不透明である。

目標株価 1,900 円は配当利回り 1.8%の水準である。配当利回り 1.8%は、16/2 期(同社がダイエーを100%子会社化)以降の同社の平均値である。

同社の場合、配当利回り以外のバリュエーションの説明力が低い。PER、BPR、ROE などの指標の改善・悪化と同社株価の変動に正の相関がみられない(または逆相関の関係にある)。

従来目標株価 1,900 円は 19/2 期弊社予想配当利回り 1.8%であった。

配当利回り 1.8%は、16/2 期(同社がダイエーを 100%子会社化)以降の同社の平均値である。

株価上昇のカタリストは、

GMS、食品スーパーを取り巻く環境が急速に改善する、
②問題子会社の切り離しを実施するケース、③優良な上場子会社を完全子会社化す
る、など。
株価下落のリスクとしては、①食品価格の下落が始まる、②問題子会社の収益の一
層の悪化、③不採算企業を新規に買収する、など。